繁華街の中央広場の噴水の前で光太はただ一人・・・そう・・・たった一人で待たされていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
う〜ん・・・暇だ・・・。
必然と大きな欠伸が光太の口から飛び出る。

「ったく・・・アイリスもラティアも・・・酷いよな・・・一人で待たせるなんて・・・」
しかも異世界で・・・

ちなみに2人がどこに行ったかと言うと・・・
「旅をする女の子は何かと必需品が多いのよ・・・」
とのことだった・・・
最終買い出しと言っていたが・・・ム〜・・・スグっていったたのに・・・
もうかれこれ15分以上待たされている。

あぁ・・・にしても・・・
地球ならこういう時PSPとはDSとか何かしらすることが有るというのに・・・
こっちの世界には何もない・・・
確かに本はあるけど、その殆どは純文学・・・
ラノベや漫画といった文化は存在しない。

いや、そりゃ確かに魔法の世界で剣と魔法のファンタジーが繰り広げられることなんてあろうはずが無いし、学園モノなんて高校生という制度がない中ではありえないことは理解するけど・・・
ただ、何ゆえにBLとハーレクインはありますかね・・・。
まあ、需要があるんならそれはそれでいいと思うけどさ・・・。

しかし・・・
う〜ん・・・下らないことを考えてみても結局は・・・。
暇だ・・・
周りを見回してみると、あるのはパン屋や花屋等・・・

近くの街灯に“移動動物園(モンスターもいるよ?)”なんて壁紙も貼ってるが、金を持たない今、結局どこにも行くことはできない・・・
・・・・・・暇だ・・・


と・・・
「ん?」
なんだろう・・・

向こうの方になにやら人だかりが出来ている・・・
具体的には男が多めだけど、女の人も結構・・・
ってか近くに男、遠くで女の人がキャッキャッて言ってる感じだ。

「誰かいるのかなぁ・・・。」

何もすることも無いし、なんとなくフラフラ〜っとソッチの方へ近づいていってみる。
うん・・・知らない場所ではかなり危険な行動だ。

すると・・・
「ねぇ・・・君可愛いね・・・年幾つ?」
「バカお前!!俺が先に声掛けたんだぞ!!ねぇ、君。一緒にご飯食べに行かない?今まで食べたことが無い程美味しいモノ食べさせてあげるよ?」
「黙ってろお前ら!!そんなのよりさ!!俺の馬で一緒に夕焼けの海を見に行かない?1時間ぐらいの処にとっても綺麗な港があるんだ・・・」
などと・・・
なんとなく野郎共の・・・いや失礼・・・プレイボーイ?達の声が聞こえてくる・・・
つまりはナンパだ。

はぁ〜と光太はため息を継いた。

「どこの世界にもこういうのってあるんだな〜・・・。」
しかし、そうなると・・・
気になるのはやっぱりナンパされている女の子の方。
よく聞くと女の人の方からも「ちょっと綺麗だからって調子に乗って・・・」とかの罵声とかじゃなく純粋に「綺麗・・・」や「可愛い・・・」や「どこかの国のお姫様かしら・・・」という声が聞こえてくる。
女の人にもそう言われる程に綺麗な女の人って言うと・・・。
やっぱり相当なものなんじゃないかな・・・
そう思って、そっと人の間を抜けて前に出てみると・・・
「・・・スゲッ・・・」
思わずそんな言葉が漏れた・・・
だってその中央に居たのは・・・
流れるような軽くウェーブのかかった金髪・・・黒いパンツスーツにリボンタイをし、最も特徴的なのは脱ぎ掛けのように腕だけに掛けた真っ赤なドレスローブ。
そして・・・信じられない程に美しい・・・女の人だったのだから・・・。

思わず息を飲んでしまった。いや、ラティアやアイリスももちろん美人である。明らかに美少女の部類に入るし、何度か声をかけたそうにしている男を見た・・・。
だけど・・・
この人は違う・・・
なんというか・・・
綺麗・・・そう・・・あまりにも綺麗なのだ・・・
2人がそれぞれ咲き誇った“バラ”や“百合”なら彼女はまるで“ガラスと金で作られた造花”といった感じで・・・
凄い・・・地球の芸能人でもこんな人は居なかった。

しかし・・・それでも・・・

「ねぇ・・・遊ぼうよ・・・」
今度は犬を抱いた男が近づいていく。
「この子がさ・・・君に会いたがってるんだよ〜。」
そう言って・・・
「ほらっ!!抱っこしてみなよ・・・」
そういって犬を手渡そうとすると・・・
?・・・気のせいかな・・・犬が震えているような・・・
そして・・・
犬は一瞬の隙をついて男の手から滑り落ち、そして物凄い速さでどこかに逃げて行く・・・
「あっ!!」
男は小さくそう叫んで犬の後を追っていった。

―プッ―

思わず笑ってしまった。
だって、その姿がかなりマヌケだったから・・・。
すると・・・

―トクッ・・・―

その笑い声に気がついた綺麗な女の人と目が会って・・・そして・・・
あろうことか微笑まれた・・・

え・・・え・・・何?・・・なんなの・・・
いやいやいや・・・少なくとも俺は顔がそんなにいいわけじゃないぞ。
でも・・・あれ?
何?

あ・・・でも・・・
ちょっと幸せかも・・・

「ダ〜リン!!」

・・・はい?
あれ・・・今の言葉・・・あの女の人が・・・
しかも・・・え・・・俺に向かって・・・

まわりを囲んでいた男たちの視線が一気に集まる。
え・・・俺!!?俺に向かって!!!?

一瞬間違いかと思ったけど、間違いじゃない!!
女の人は小走りに俺の方に近づいてきて・・・

「女の子を待たせるなんてどういうこと?」
軽く首を傾げながら、そんな風に聞いてくる・・・

「え・・・え・・・」
あの・・・人違いじゃ・・・ってか周り殿方!!皆さんの視線がものすごく痛いんだけど!!

「ねぇ、ダーリン・・・今日はどこに連れてってくれるの?」
「ど・・・え・・・どこって・・・」
「ひょっとして・・・いつもの所?」
「え・・・あ・・・え・・・」
「ダ〜リン・・・いいの〜?昼間っからそんないやらしいことして・・・」
「え!!え!!何!!」

あ!!あの!!視線が!!視線が人を殺せるレベルなんですけど!!ってか痛い!!痛すぎる!!
でも・・・
その言葉を聞いてか男達が「チッ・・・彼氏持ちかよ」とか「クソッ!!男居んのかよ!!」とか「昼間っからラブホかよあの変態男!!」とか「待ち伏せてぶっ殺してやる」とか・・・
物騒なことをいいつつ、男たちが去っていく・・・。
あ・・・間違いない・・・アレは本気だ・・・
殺気が・・・だって殺気が・・・

男たちがバラけると、
「ふぅ・・・」
女の人は静かに息を撫で下ろした。
「ごめんね。巻き込んじゃって・・・。火浦光太君。」
え・・・
先程とは比べ物にならないぐらい心が撥ねた。
だって・・・
「何で・・・俺の名前・・・」
言ってない・・・間違いなく言ってないはずだ・・・なのに・・・。
それを聞いて、女の人はクスっと笑った。

「まずは自己紹介ね・・・私はクリス・・・クリスティアーネ・レイ・ラルフィオーネ・・・」
そう言うと、まるで舞台の上でしか見られないような綺麗な礼をして・・・

「土浦光太殿・・・此度は魔王陛下の使いとして貴方の元にやってきました。」

その言葉に・・・再び心臓が・・・

「魔王・・・の・・・」





「なにか飲む?」
近くのドリンクバーでクリスさんにそう聞かれたので思わず、オレンジジュースと子供っぽく答えてしまう・・・だってしょうがないじゃないか・・・コーヒーとか紅茶の味なんてまだわかんないし・・・
「じゃ、オレンジジュースとトマトジュースを・・・。えっと・・・光太君大きさは?」
「あ・・・普通でいいです。」
「じゃ、両方共Mで・・・」
クリスさんはそういったはずなのに・・・
「お嬢ちゃん可愛いからサービスだ。」
そう言ってLサイズが出てくる。・・・美人って得だよな・・・
殺気の噴水が見えるオープンカフェテリアに座って俺はニコニコと見守るクリスさんの前で静かにオレンジジュースを飲んだ。うん・・・搾りたてで美味しい。
「美味しい?光太君。」
「あ・・・はい・・・とっても・・・。」
こういう時って女の人と喋り慣れてないのってものすごく疎ましいよね・・・。
「ふ〜ん・・・光太君・・・変わった服を着てるね。」
「そ・・・そうですか・・・」
「うん。えっと・・・学ランって言うんだっけ?」
「あ・・・はい・・・よくご存知で・・・。」
「まあね。魔王陛下に色々教わったから・・・。」
あ・・・そういえば、魔王様って地球の人だった・・・
「えっと・・・クリスさんは魔王様の・・・」
「ん?」
「恋人・・・ですか?」
するとクリスさんは首を傾げ・・・
「う〜ん・・・どっちかって言うと・・・愛人・・・かな・・・」
「あ・・・愛人・・・ですが・・・」
「そ、まあ表向きには執事なんだけどね・・・でも、多分恋人じゃないと思う・・・。」
「そ・・・そうなんですか?」
「?・・・どうしたの?」
「いや・・・。」
こんな綺麗な人が愛人て・・・魔王ってどれだけ女ったらしなんだろう・・・と・・・
「つまり・・・」
「はい?」
「私の恋人の座はまだ空いてるよ・・・なる?恋人に・・・」
「え・・・あ・・・はぅええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんですって!!!!
「色々私が教えてあげるよ〜・・・。主に・・・男としての喜びとか・・・」
なななななななななななななななな!!!!なんですって!!!!!
「今夜から教えてあげる・・・最高の快感を・・・」
ええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!
何!!今夜いきなり脱童貞!!何その夢のような!!って違うだろ!!!
ゆっくりと寄せられ、触れられた頬からはものすごくスベスベな指の感触が・・・。
「そ!!そうだ!!」
キス寸前というところで、俺は言葉を切り替えした。
「ま・・・魔王陛下って・・・どんな人何ですか?」
「え・・・う〜ん・・・」
あ・・・危なかった。危うく、貞操が奪われるトコだった。
でも・・・
「魔王陛下か・・・」
クリスさんは何故か悩んだような言葉を紡ぐ。
「えっと・・・変な人何ですか?」
「いやいや・・・普通の人だよ・・・でもね・・・単純に言えばめんどくさがりかな・・・」
「めんどくさがり・・・ですか?」
「そう・・・。結構公務放り出して釣りに行っちゃうような・・・そんな人・・・。」
「・・・いい加減ですね・・・。」
「えっと・・・ミツヤ・・・には会ったことあるんだよね?」
あれあれクリスさん?国王陛下呼び捨てですか?
「あ・・・はい・・・」
「あれとは正反対・・・だけど良い人・・・って考えればいいよ。一応アレも国王なんだから、もう少し自覚を持ってくれると嬉しいんだけどね・・・。」
「魔王陛下も・・・国を納めてるんですね。」
「そう・・・この大陸の西にある巨大王国連合の中で最大の国・・・グレート・キャメロットの皇帝にして、王国連合の盟主・・・のはずなんだけどね・・・。」
困ったように呟くクリスさん・・・でも・・・驚いたのは思ったより魔王が偉いことと・・・思ったよりいい加減なことだった。
「でも、魔王陛下は貴方に興味があるみたいよ・・・。」
「・・・そうなんですか?」
「ええ・・・なんかどうしても聞きたいことが有るんだって・・・」
「聞きたいこと?」
なんだろう・・・
「私も詳しくは知らないんだけどね・・・。でも、ミツヤは答えられなかったみたいよ。魔王陛下はかなり残念がってたから・・・」
ふ〜ん・・・
と・・・
「クリスさんは・・・陛下と・・・関係が?」


「・・・それは性的に?」


「いやいやいや!!そんなわけないじゃないですか!!!」
ってか性的に・・・なら教えてくれるのだろうか・・・

「んっとね・・・みっちゃ・・・いや・・・ミツヤは・・・」
なんだろう・・・今・・・とんでもない呼び方が出た気が・・・。

「まあ、その辺は私に聞くと。ボロが出そうだから、ミツヤに直接聞いて・・・」
ちなみにこの後、陛下に直接聞いたところ・・・
「聞くな!!色々と思い出したくない!!!思い出せない!!あんな恥ずかしい姿を晒したことなど絶対に思い出すものか!!!!」だそうです。

ふと・・・
「でも、よくわかりましたね・・・。」
「ん?」
「あんな人ごみの中で俺のこと・・・いきなり光太だって・・・」

当然の疑問をぶつけてみる・・・するとクリスさんはフフッと笑って・・・
「だって・・・とってもいい匂いがするから・・・。」
そう言って再び俺の方へとクリスさんが・・・
クリスさんが!!!!!

なんか顔を近づけられて臭いを嗅がれて・・・
しかも・・・
それで目を蕩けさせて・・・
なんで!!どうして!!俺別にCMのあのAXEとか使ってないよ!!!
「なんでこう貴方達異世界の人っていい匂いがするのかしら・・・。ねえ・・・光太くん・・・ちょっとだけ・・・ね?」
「ななな!!なんですか!!!ちょっとだけなんですか!!!!」
「大丈夫・・・優しくするから・・・。」
何!!一体なにが起ころうとしてるの!!!え!!!
「大丈夫・・・とっても気持ちイイから・・・」
ちょ!!え!!クリスさん!!昼間ですよ!!1真昼間のオープンカフェですよ!!!
それはあまりにも!!!
「クククク・・・クリスさん!!!」
だめだよ!!そんなのだめだよ!!

「ちょっとだけ・・・試飲させて・・・」
そんな・・・試飲だなんて・・・って・・・え・・・試飲?

ちょっとだけ、クリスさんの方に目を向けると・・・
!!!!!!!!!!!!!
いや・・・もちろんものすごく綺麗な顔がそこにはあった・・・ただ・・・
問題だったのはその口元・・・そこには・・・
先程まで無かったものすごく鋭利な犬歯が・・・。

「あーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
その声が響いたのは光太がソレを見た直後だった。
「何をしてるんですか!!!!!!!!!!」
聞き覚えのある声に光太も慌ててそちらを振り返ると・・・
両手に紙袋で荷物を持ったラティアがこちらを睨みつけていた。
「コウタさん!!人が買い物に行ってる時に、女の人とイチャ付いて!!!!」
「いや!!違っ!!誤解だから!!!」
ラティアの言葉になんにも悪いことをしていないのについついあたふたしてしまう。

「まったく・・・人が少し目を離した隙にこんな綺麗なおんなのひ・・・」

ん?あれ・・・なんだろう・・・ラティアが固まった。

そして・・・
ズサササササササササササササササササ!!!!!!!!!!!!!

とんでもない速度で後ずさって行く。
何!!一体何!!!
「ククククククククククククリクリクリクリクリクリスさん!!!!!!!!!!!!!!」
名前を呼ばれた本人の方を見てみると、なんでしょう・・・ニコニコしてヒラヒラ手をふってるだけなのに・・・何故かものすごく
ラティアが・・・
「なんで!!!どうしてここに居るんですか!!!!」
え・・・
「ラティア・・・知り合い?」
と・・・
「ラティア・・・そんなところでなにをし・・・」
アイリスが同じように紙袋を抱えて登場したのだが・・・
「・・・!!!」
同じように入り口で固まる・・・
そして・・・
「おのれ!!!!吸血鬼!!!」
と言って目がキラっ!!と輝き始め・・・ってちょ!!
「アイリス!!!燃やす気か!!!?ヤメろ!!!!」
光太があわててそう言ってなんとか即燃焼の危機は避けられたものの、未だに一触即発の状況が続く。

「アイリも・・・ラティも久々ね。どう?元気してた?」
ニコニコと言うクリスさんにもラティアは怯え、アイリスは相変わらず警戒心を解かない。

「元気にしてた?じゃないです!!!なんでココにいるのかの説明を要求します!!!」
「ア・・・アイリスさん・・・そんな言い方・・・」
怯えるラティアにもアイリスは敵対心を解かない。

「・・・私も嫌われたわね・・・」
「当然です!!!」
怒鳴るようにアイリスが叫んだ。
「ミツヤに・・・ミツヤにあんなことしておいて!!!」
え・・・アイリス・・・ミツヤって・・・
ってかクリスさん・・・マジで貴方は陛下に何をなさったのですか?
ってか・・・まあ・・・うん。あの歯とアイリスの言葉を聞いてしまったからには彼女の正体が吸血鬼であることは明白だから・・・

「アイリ〜・・・アレはちょっとしたジョークじゃない・・・少しだけ試飲しただけじゃない・・・」
あ・・・やっぱり飲んだんですね・・・吸っちゃったんですね。
「ジョークでもなんでも!!わ・・・私の前で・・・ミツヤの血を・・・ミツヤを・・・あんなに!!喘がせて!!!」
「だって、みっちゃんの血とっても美味しかったからついつい・・・でも、ちゃんと我慢したよ。ほら、その証拠に彼まだ吸血鬼になってないでしょ?」
「それでもだめです!!それとその“みっちゃん”って呼び方も駄目です!!!私より親密に呼ばないで下さい!!!」
・・・アイリス・・・実はそれが一番の理由でしょ・・・

「そもそも!!!」










「た!!!大変だ!!!!」


アイリスが言葉を紡ごうとした時にその声が響いた。
「逃げろ!!!動物園から牛が逃げたぞ!!!」

「何!!!?」
一番に反応したのは光太だった。
もしかして・・・さっきの張り紙の移動動物園ですか?

街の街道を見てみると人が全員避難した道の向こう側に・・・大量の土煙が・・・っておい!!移動動物園はいつから牧場規模の牛を連れて歩くようになった!!!!

「アイリスさん!!」
「ラティア・・・行くわよ。」

2人がそう言って店を飛び出そうとす・・・
るところを・・・クリスさんが2人の肩をスッと掴みそして・・・
「こういうのはプロに任せる・・・。」
と楽しそうに2人を追い抜いていった。

「プロって・・・あなた大丈夫なの!!?」

不安そうに呟くアイリスにクリスさんはフフッと不敵な笑みを浮かべ・・・

「あら・・・この国の牛は・・・何時からドラゴンより凶暴になったのかしら・・・」

そこからは・・・本当に手品を見ているようだった。
やはり不安になって、外に出て見た光太達の目の前で・・・

クリスさんは途轍もない速さで赤のドレスローブを舞わせ、牛を誘導し・・・
モノの数分で元居た檻の中に全ての牛を閉じ込め・・・
そして・・・

片手でバンッと檻を締めて鍵をかけ、パンパンと両手を払う。

「スゲッ!!」
思わず見惚れた光太がそう呟いた。

「やっぱり・・・クリスさんは凄いです・・・。」
とラティアもそれに同意する。
「フンッ・・・まあ、実力ぐらいは認めてあげてもいいわ。」
とアイリスも仕方なさそうにそれに同意した。

「吸血鬼って・・・凄いんだな・・・」
光太がラティアにそう聞くと・・・ラティアは「?」と振り返り・・・
「吸血鬼・・・何言ってるんですか?」
「え?・・・だってアイリスが・・・」
「クリスさんは・・・ただの吸血鬼じゃありません。」
「だたの吸血鬼・・・じゃないって・・・。」

どういうことなんだろう・・・。

「アレはね・・・」
とアイリスが言葉を継いだ。
「吸血鬼の中でも・・・最も古く、最も気高く、そして・・・最も強力な・・・世界で数人しか居ない最高の吸血鬼・・・“真祖”なの・・・。」
「真祖・・・」
光太の言葉にアイリスも頷いた。
「不老不死にして最強の種族・・・その気になれば・・・陛下でも倒せるかわからないわ。」
「陛下でも!!!?」

「光太さん・・・気をつけてください。あの人だけは・・・怒らせてはいけません。」
そういった時のラティアの言葉は・・・酷く冷静だった。

すると・・・
「光太君。」
向こうからクリスさんに呼ばれ・・・あぁ・・・また男どもの視線が痛い・・・。
「楽しかったよ。ありがとう。大体の用事は終わったから、私帰るね。」
そう言ってクリスさんは・・・

まるで、空気に溶けるように黒い霧になって姿を消した。


こうして・・・旅立ちの直前の・・・
慌ただしい出会いは膜を閉じたのだった。






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