こんにちは。初めまして、リリア。私はノーラ。家庭教師としてアトリー子爵に呼ばれたの。これからよろしくね。
今日の授業内容はこの国の姿。
ほとんどはリリアも知ってることだからあんまり楽しくないかもしれないけど、頑張って寝ないようにしてね。

じゃあさっそくだけど始めるわね。
この国、それからこの周辺の国は王制、貴族制をほとんどの国が採用しているわ。このアトリー子爵領ももちろん、貴族制の結果生まれた領地ね。爵位が高くないから領土こそ少ないけれど、東方由来の技術を積極的に輸入していますし、街もにぎわっています。
そしてお隣のベントリー伯爵領――大体は略して伯領というけれど、そこもそんな貴族制の結果生まれた領地の一つね。ベントリー伯自身は恰幅のいいただのおじさんに見えるけれど、若いころに辣腕でのし上がった人物よ。そのやり方はやりすぎだとすら言われたらしいけれど、今では人々は彼を親しみを込めて伯と呼ぶようにまでなっているの。治世は穏やかで、上級階級にも市民にも理想的と言われる賢君。子爵側としても、付き合い方を間違えなければよい関係が築けるんじゃないかしら。
都市機能が密集した子爵領とは違ってベントリー伯領はなだらかな大地が大半で、小麦やトウモロコシ が主な農産物として知られているわ。領土のほとんどは農耕地で、広大な割に人口が少ないことが領主の最近の悩みみたいね。技術力もこちらほど高くはないからか、伯は子爵領に攻め入ってくるんじゃないか、冗談でそう言われることもあるわね。
――もし攻めてきたら?
……そうねぇ、伯には悪いけれど、子爵側が勝つんじゃないかしら。人口比で見てもあまり変わらないし、軍隊には最新式の武器もたくさん揃っているみたいだから。
他の貴族たちの領地にしても、そんな感じかしらね。子爵領を囲む領地は皆牧歌的で農耕が盛ん。海向こうが近年、技術力を前面に押し出しているのとは大違いね。その脅威は、もう一刻の猶予もないとすら、子爵は考えてる。
国中が農業を活性化して海向こうに圧力をかけようって言ってはいるけれど、それが通用するかは別問題。たとえば海向こうがその技術力で農業を始めたら? あるいはこちらに攻め込んで植民地にしようとしたら?
今はまだ何事もないけれど、これからもそうとは限らないの。アトリー子爵はそういうことを考えてこの領地に現代技術を取り入れてる。今はまだ海向こうにかなわないけれど、それももうすぐ終わるわ。東方世界と海向こうの融合が今までの文化の発信源だったとすると、これからはそれを取り込んで新たな技術へ進化させたアトリー子爵領が文化の発信地になるの。
だからリリア。あなたはもっと勉強しなくてはいけないわ。この世界のこと。今起こっていることを。